時代を経て愛されるスラックスハンガー
スラックスハンガーの誕生!
“スラックスハンガー”という商品をご存知でしょうか。
その名の通り、スラックスをかけるためのハンガーです。
もしかすると最近では“スラックス”という言葉自体あまり聞かなくなったかもしれません。
“パンツ”や“ボトムス”のような言い方が浸透したのも、ここ20年くらいのことではないでしょうか。
“スラックスハンガー”というネーミングからも、この商品の歴史を感じ取ることができます。
ビーワーススタイルのスラックスハンガーが初めて市場に登場したのは、十数年以上前、当時、ビーワーススタイルの現社長がまだバリバリの営業マンだった頃に遡ります。
スラックスハンガーはあるカタログ通販とのオリジナル商品として世の中に誕生し人気を集めました。
その当時はやはり、男性のスラックスをかけて収納するためのアイテムで、収納場所は押し入れの下の段を狙っていた商品でした。
使いやすさのために考え抜かれた設計
今ではもう、設計図や掲載されたカタログは残されていませんでしたが、生みの親である社長は懐かしそうに当時の開発について語ってくれました。
開発当初から、世の中に“スラックスハンガー”という商品は他にもありました。
“移動しやすい”“頑丈”など様々な魅力はありましたが、“スラックスが探しやすく取り出しやすいハンガー”を考え出したのが、当時営業マンだったビーワーススタイルの社長でした。
その頃はハンガーも固定式が多く、同じようなスラックスが並ぶ中から1枚を選び出し、取り出すという動作を、どうやったらスムーズに行えるか、考えに考えを重ね、ようやく今もなお引き継がれている取り外せるハンガー構造が実現しました。
ハンガーを従来の固定式から差し込み式にしたことで、ハンガーが左右に遊ぶ動きを利用し、スラックスを選びやすくさせたのです。
また、差し込み式なので、選んだスラックスを上からハンガーごと取り出すこともできます。
簡単な造りのようで、実は考え抜かれたとても理にかなった構造なのです。
ところが、形状が決まっても、スラックスをかけた際に、角度や素材によってスラックスが滑り落ちてしまう問題が発生しました。
ハンガーを直角に設計した場合、スラックスの重さで前に傾き、前から滑り落ちてしまうのです。
そこで、ハンガーの角度をやや上向きにすることで、前から滑り落ちるのを防ぎました。
スラックスをかけても安定する角度を何度もワイヤーの角度を変えては実験し、ようやく今の角度を発見したのです。
前から滑り落ちる問題が解消しても、ハンガーの素材によって、今度は横から滑り落ちてしまう問題が発生しました。
それについては、当初はハンガー部にシリコンチューブを巻いて滑り止めにしていたそうですが、今では改良され、ハンガー部にポリエチレンコーティングを施すことで滑り止めとなり、スラックスが滑り落ちるのを防いでいます。
スラックスハンガー復活!
今では大人気のスラックスハンガーですが、住宅事情などの時代の流れと共に、ビーワーススタイルのスラックスハンガーはカタログからいったんは姿を消しました。
ところが、2016年に復活を果たします。
その頃には営業でトップを駆け抜けた社長も、既に現在の営業部長に引き継いでおり、その営業部長がスラックスハンガーを再度企画し、当時のカタログ通販にて2回目の発売を遂げました。
瞬く間にスラックスハンガーは人気商品になりました。
さらに時が経ち、今ではビーワーススタイルが運営するネットショップの店長が、様々な使い方を提案するなどして、SNSでも話題を呼ぶ商品となりました。
実はスラックスハンガーは発売当初からほとんど姿形が変わっていません。
押し入れの下を目的として作られたスラックスハンガーですが、少し前まではどのご家庭にも、襖を開けると2段になっている押し入れがあり、布団やシーズンアウトした衣類などを収納していました。
それがいつからかクローゼット文化が定着し、新しく立つ家や賃貸住宅はほぼクローゼットになりました。
最近ではウォークインクローゼットなど、衣服のためだけのスペースが確保されている家も増えてきています。
通常クローゼットは、上にハンガーパイプがあり、そこにジャケットやコートなどをかけていきます。
すると、クローゼットの下にスペースができてしまうのですが、スラックスハンガーはそのスペースにぴったり合うのです。
これは本当にただの偶然なのですが、時代が変わり文化が変わると、それに合わせて必要な形に変化するのが世の常ですが、スラックスハンガーは押し入れとクローゼットという、奥行や使い方がまるで違う環境変化があったにも関わらず、今度はクローゼットの下にジャストフィットしたのです。
“スラックス”から“パンツ”へ
文化が変わったのは、収納スペースだけではありません。
20年ほど前に比べると、ビジネスシーンでスーツをきっちり着込んだサラリーマンも少なくなったように思います。
2005年から環境省が環境対策を目的として推奨した“クールビズ”という衣服の軽装化キャンペーンも影響してか、デニムジーンズにTシャツとジャケットというような、ラフなスタイルで商談をしている姿も多く目にするようになりました。
今までビジネスマンには欠かせなかった“スラックス”も、時代と共に“チノパン”や“ジーンズ”が当たり前になってきています。
また、女性が普通にパンツを履くようになってから随分久しいですが、学生や女性の事務員さんの制服は今でもスカートがメジャーです。
ところが近年ではショップ店員の制服もスカートとパンツを選べるなど、パンツスタイルはどの分野でも男女共通になりつつあります。
つまり、パンツスタイルが男女問わず定着したことにより、1人が所有しているパンツの枚数は増えているのではないかと推察します。
スラックスやパンツをかけるという用途は変わっていないのに、当時男性のスラックスをかけていたスラックスハンガーは、今では男女問わず、仕事でもプライベートでも必要なパンツを収納するのに便利なアイテムとなりました。
同じ形状であるにも関わらず、用途は変わらず、しかし使用場所や使う人の考え方は変わっている。
スラックスハンガーは時代を経て愛される、不思議で興味深いアイテムなのです。